カカオ・プリエト Cacao Prieto
ニューヨークのブルックリン地区にある「カカオ・プリエトCacao Prieto」
世界的に大変注目されているチョコレートショップです。
この趣きのあるレンガ造りの店の正面にあるプレートには「Beans-to-Bar(ビーントゥバー)」という文字が刻まれていますが、この店の設立者であるダニエル・プリエト・プレストン氏が取り組もうとしているプロジェクトは、この言葉の範疇には納まりきらないほど多岐にわたっています。
近年、「ビーントゥバー(カカオ豆からチョコレートを作る一連の作業)」を掲げる店の盛り上がりはヒートアップする一方で、様々な異業種からの参入が急増しています。
1.小規模でも製造可能な加工機械が販売されるようになったこと
2.カカオ豆の購入が少量単位でも可能になったこと
3.少量生産のチョコレートでもネットなどで販売経路が広がったこと
4.希少カカオの特徴的な風味を好む人が増えたこと
などが、ビーントゥバー参入へのハードルを急激に下げ、様々な人々のチャレンジを可能にしているように思います。
しかし、ダニエル・プリエト・プレストン氏の場合、「チョコレート製造」に取り組み初めた背景が全く異なります。
まず、驚くことに彼はかつて航空宇宙工学分野の科学者でした。かつ多数の特許を取得した富豪でもあります。12歳で飛び級して大学に入学し、自分自身が事故に遭遇した経験から安全性の高いパラシュートを開発するなど、若い頃から多数の発明を行った天才だと聞きました。
なぜ、そんな彼が「チョコレート製造」を手がけようと思ったのでしょうか?
それは、彼が事業にひとつの区切りを付けた後に訪れたドミニカ共和国で、彼の先祖が設立し一族が100年以上継承してきたオーガニックのカカオ農園の存在を知ったことから始まったと言われています。
つまり、自らの先祖がドミニカ共和国に開いたカカオ農園が彼の「Beans-to-Bar」 いえ「Farm-to-Bar(カカオ農園の管理から製品まで)」の原点となったわけです。
ショップのショーケースの中には
ショップでは、シンプルなタブレットのシリーズ(カカオ分72%)7種や、タブレットの表面に5パターンで様々なナッツやドライフルーツがのせられたものが販売されていました。
いずれのチョコレートにも、ドミニカ共和国の農園で生産されたオーガニックのカカオ豆とキビ砂糖が使われています。
食べてみると、スッキリとした上品なフレーバーと心地良い余韻のある苦味が口いっぱいに広がります。
写真のタブレットはドミニカ系クリオロのシングルオリジンでしたが、包装用紙の裏には、カロリー表示の他、トランス脂肪、飽和脂肪、コレステロール含有量などの表示もありました。
そして、オープンなガラス張りのショップの奥にあるのは
様々なチョコレートの製造機械です
オリジナルの「ウィノワー」
中でも秀逸なのは、彼自身が開発したオリジナル加工機械です。
たとえば、上の写真の「Winnower ウィノワー(砕いたカカオ豆をニブと外皮に分ける機械)」
さすが天才科学者の設計らしく、スタイリッシュで凄く面白い!
中央のガラス管の中を風がトルネード状に吹き上がっていて(風速にゆらぎがあるように見えます)、その中を通過する間にカカオニブや外皮や他の細かい夾雑物が、クルクル回りながら、比重の違いや重力・空気抵抗・揚力の違いで、下に落ちるもの、上に浮き上がるもの、そこに留まるものに分かれていきます。
(彼の航空工学に関する知識が上手く生かされていように思います)
実は、このスタイリッシュな「ウィノワー」は販売もされていて、すでに導入したという店もあります。
ただ、私が見たところ、カカオ豆の状態に合わせてニブと外皮の分別バランスを微妙に調整しなくてはならないように見えますので、「意のままに使いこなす」というのはなかなか難しいのではないかなと思います。
でも、こんな機械がお店にあったらカッコイイですよね。
蒸留コーナーも
このお店では、オーガニックのキビ砂糖やカカオなどを原料とした「ラム酒」「リキュール」、ニューヨーク北部のウィドウジェーン鉱山跡で採れる銘水を使った「ウィスキー」なども製造・販売しています。
ショップの中には、上の写真のような美しい蒸留設備も。
(チョコレートだけではなく、これらのラム酒やウィスキーも国際的なアワードを受賞しています)
ところで、ダニエル・プリエト・プリストン氏は、現在カカオ農園でも様々な研究にチャレンジされているようです。
このような科学者のアプローチは、カカオの優れた遺伝子の保護や品種改良にもつながります。優れた風味を持つカカオで、かつ病害虫に強い品種、収量の高い品種が開発されれば、現在貧困な地域が多いカカオ生産国に豊かさをもたらしてくれます。また、より的確な発酵技術がカカオ豆の魅力を強力に引き出してくれます。
私自身もこの分野には大変興味を持っていますし、彼のチャレンジに大いに期待したいと思っています。
(写真撮影 2014年10月)
カカオ・プリエト(NYブルックリン)