「サロン・デュ・ショコラ・パリ2015」(1) トピックス編

                        2015年10月撮影

 

今年の会場には巨大なクマのオブジェが出現

 

恒例の「サロン・デュ・ショコラ・パリ Salon du Chocolat Paris」に行ってきました。

 

今年で第21回を迎えるこのイベントは、パリでは老若男女だれもが楽しめる秋の一大イベントとなっています。

 

 

 

 

会場は「ポルト・ドゥ・ベルサイユ Porte de Versailles」の見本市会場第5パビリオン(1・2階)

10月28日(水)〜11月1日(日)の5日間です。

 


 

通常、入場券(14ユーロ)を持ってない人は、2階のチケット売り場に並ばなくてはいけないので階段下に長蛇の列ができるのですが、今年はすでにネットや街中のチケット販売店で購入を済ませた人が多かったせいか、かなりの人が1階の入り口からスムーズに入場できていました。

 

 


会場のショップマップ(2階、1階)

 

今年のテーマは「Expressions CacaoInnovations Chocolat

 

2階が「イベントスペース」と200店近い「チョコレートショップ」

1階が「ワールドチョコレートマスターズ・ファイナル会場」「カカオ生産国のブース」「プロ用の展示スペース」です。

(2万平方メートルの会場に、40カ国から700の出展者、220人のショコラティエが参加すると発表されています)

 

 

2階中央のイベントスペースの前には、この巨大なクマのオブジェが!

はたして中身は何でできているのでしょう?

 

 

 

 

今や、アメリカ発で世界的大ブームとなっている「bean to bar」。

この会場でも、その影響がかなり色濃くうかがえました。

 

しかし、知らない人が多いかもしれませんが、ヨーロッパではかなり昔から、様々なカカオ豆を生産国から取り寄せ、自らの工房で焙煎し、カカオ生産地やカカオ農園の個性を生かした上質なチョコレートを製造するショップがいくつも存在していました。

 

 

例えば、カカオ豆からのチョコレート製造に百年以上前から取り組んでいる「ボナ Bonnat(左)」

カカオ豆どころか、マダガスカルにカカオ農園まで所有している「プラリュ Pralus(右)」


(プラリュさんは、カカオ豆を入れた麻袋を置く位置まで定番ですね)

 

 

リヨンで様々なカカオ豆から上質なチョコレートを作り続ける、大好きな店ベルナション Bernachon(左)

メキシコのレアル・ソコヌスコ(王家のカカオの意)など希少カカオ豆を扱うスペインの「カカオサンパカ Cacao Sampaka 」(右)


 

 

その他にも、多数の人気店が楽しませてくれます。 

 

毎年新しい驚きを提供してくれる「サダハルアオキ Sadsharu AOKI (左)」

いつもお洒落で可愛い雰囲気の「シャポン CHAPON(右)」 

(このシャポンも以前からbean to barに取り組んでいる店で、カカオパルプドリンクも販売しています)


 

 

 



 

中央のイベントスペースでは、10月29日、チョコレート版ミシュランと呼ばれているC.C.C. ( Club des Croqueurs de Chocolat )」による「Les AWARDS チョコレートアワード」の発表もありました。 

 

ステージに並ぶ受賞者の皆様

 

 

アワードにはいくつかの部門がありますが、今年は海外部門のアワード

Award de L’Excellence」最高味覚賞を、東京渋谷「テオブロマ Theobroma」の土屋公二 Koji Tsuchiyaシェフが受賞されました。

 


 

土屋シェフは、日本ではまだ「bean to bar」の意味がほとんど認知されていなかった十年以上前から、「カカオ豆の個性」と「産地の重要性」を視野に入れて世界中のカカオ農園を巡り、人知れず研究を続けてこられました。

そのたゆまぬ努力が、チョコレートの奥深い風味や食感に結実したのではないかと思います。

Le Guide des Croqueurs de shocolat」にも「味覚の魔術師」と書かれていました。

 

9月には、本店のすぐ近くに「bean to bar チョコレート」に特化した新店舗「カカオストア CACAO STORE」を開店されています。

この店には上質な「bean to bar タブレット」も多数置かれていますし、カカオ生産国の写真や民具、カカオ豆を焙煎してチョコレートにまで仕上げる一連の加工機械類も目の前で見ることができます。

チョコレート好きには必見のお店ですね。

 

 

 

 

そしてもう1人、私が驚いたのは、海外部門の「Award du Coup de Cœur」を受賞した北イタリア「Piccola Pasticceria」の才村由美子 Yumiko Saimuraさん。

「あれっ?どこかで見たことのある人だなぁ」と思いながら記憶の糸を手繰ってみると、そうそう4年前の「ワールドチョコレートマスターズ」ファイナルに「イタリア代表」として出場していた日本人女性だということに気づきました。

 

4年前のファイナル当日イタリア代表ブース

                (撮影:2011年10月) 

 

海外で修行を続けるだけでも大変なのに、他国の代表として国を背負って世界大会に出場するとは。

当時「こんな生き方をする女性もいるんだ」とその芯の強さに大変驚かされたことを想い出しました。

才村さんはロンドンの「インターナショナルチョコレートアワード」でも金賞を受賞していて、その受賞作「ピッコラ・ジャンドゥーヤ(ジャンドゥイオット)」も、店舗のある北イタリア・ピエモンテ産の最高級ヘーゼルナッツの風味を活かした美味しい逸品に仕上がっています。

 

 

 

ところで、C.C.C.のアワードには、昨年から新たに「LES INCONTOURNABLES」という部門が設定されています。

「避けて通れない人たち(つまりそれほど大切な)」と呼ばれているこの部門には、今年も、ジャン・ポール・エヴァンJean-Paul Hévin、ファブリス・ジロットFabrice Gillotte、ピエール・エルメPierre Herméなど、フランスを代表するような有名パティシエたち15人が選ばれました。

 

その15人の中に、パリに店舗を持つ日本人の青木定治 Sadaharu Aokiシェフが2年連続で選ばれていますが、これは実は大変なことなのです。

青木シェフは、TVや講習会では「個性的で派手なシェフ」と思われがちですが、私はその裏にある非常に「繊細な部分」をしばしば垣間見ることがあります。

かつて、C.C.C.の格付けが1〜5タブレットだった時代(青木シェフはまだまだチョコレートに関しては発展途上だった時期)、上記のフランス人パティシエたちは堂々たる5タブレット、青木シェフはまだ4タブレットに上がったばかりでさらに上を目指して頑張るぞ!と目をキラキラさせていた時代がありました。

その時期のことを考えると、今や大御所と肩を並べるまでに高い評価をもらえるようになったということは実に大変なことだと思います。

パリという古い街で試行錯誤しながらも努力を続けてこられたことの成果ではないでしょうか。

 

 

Le Guide des Croqueurs de shocolat

 

 

 

 

さて、10月28日〜30日、1階会場では、2年に1度開催される「ワールドチョコレートマスターズ World Chocolate Masters 2015」のファイナルが3日間に渡って行われました。

 

今回の課題テーマは「INSPIRATION from NATURE自然からのインスピレーション)」 

自然からの閃きとも、啓示とも、霊感とも解釈できる難しいテーマです。

 

 

日本代表は、「クラブハリエ」の小野林範 Hisashi Onobayashiシェフ。

 

小野林シェフは、すでに数々の受賞歴(例えば2012年のWPTCWorld Pastry Team Championship 優勝など)を持つ実力派パティシエです。

 

しかし、私が見る限り、この「ワールドチョコレートマスターズ」は他の大会以上に精神的にも肉体的にも大変過酷な競技会。

 

というのは、この「ワールドチョコレートマスターズ」は国の代表選手が1人のみの個人戦です。

WPTC」や「クープ・ドゥ・モンド」のようにチーム戦であれば、予期せぬアクシデントや他国からの妨害があっても、協力し合ってどうにか乗り切ることができます。

しかしこの大会では、どんなトラブルが起こっても、全て1人の力で乗り切らなければなりません。2メートルを超える大きなチョコレートピエス、小さなチョコレートピエス、アントルメ、ボンボンショコラなど、難しい6つの課題を黙々と作り続けます。

 

特に、大きなチョコレートピエスは予期せぬアクシデントが起こりやすく、ちょっとした振動で完成直前の作品が砕け散ってしまうこともあります。

事実、今大会でも、あと一歩で完成というピエスが落下し粉々に破壊されてしまう国が続出しました。

他国の代表とはいえ、血の滲むような努力の末に作り上げた作品が最終審査の直前に壊れてしまうというのは、気の毒すぎて声がありません。

(当然、シェフの目には涙が溢れてしまいます)

ですので、競技会を見る時はいつも、チョコレートピエスでもアメ細工でも「とにかく全員無事に壊れず最終審査まで残って」と心の中でハラハラしながら見守っています。

 

 

幸い日本代表の小野林シェフは、大きなチョコレートピエス(左)も小さなピエス(右)も、課題通りに無事完成しました。


惚れ惚れとするような美しい作品で、かつ可愛らしさや力強さも兼ね備えています。ボンボンショコラなど、他の作品もアイディア満載でした。

(その詳しい内容については → こちら

 

選考は、大会2日目に参加者20名(20の国と地域の代表)のうち10人が選ばれ、さらに最終日に10人のうち5人が選ばれ、その中から1〜3位が発表されるという今回からの新方式。

採点は、デザインの独創性、味覚、技術、作業台の清潔さなど、様々な項目で行われます。(つまり、作業している手際も常に審査員に観察されているということ)

結果は、1位フランス、2位日本、3位ベルギーでした。

 

小野林シェフも、サポートされてきたクラブハリエさんも、前田商店の皆さんも、歴代の出場先輩シェフたちも、とにかく優勝を目指して1年間努力されてきたので、悔しいと言う気持ちの方が強いかもしれません。

でも、私が見る限り、小野林シェフの戦いは「世界一」でした。

 

そして、その後発表された各部門賞では、小野林シェフはBest Chocolate Showpiece」とBest "Sweet Snack On-the-go」の2つの価値ある賞を受賞されています。

 

 

今回受賞された皆様、本当におめでとうございます。 

 

 

 

 

ポルト・ドゥ・ベルサイユ見本市会場(サロン・デュ・ショコラ会場)